更新の案内と一緒に、「次回から賃料を改定したい」という通知が届いた。
この段階で担当者が迷うのは、「断れるのか」「交渉できるのか」「いっそ移ったほうが安いのか」の3つです。
この記事では、賃料の値上げを通知されたときに、何をどの順番で比べればよいかを整理します。移転全体の進め方はオフィス移転とは?流れ・費用・スケジュールにまとめました。
この記事で分かること
- 賃料の値上げは、法律上どう扱われるのか
- 値上げの通知を断ることはできるのか
- 交渉するときに何を材料にするか
- 残る場合と移転する場合の総額をどう比べるか
- いつまでに決める必要があるか
結論
- 値上げの通知は、貸主からの「請求」です。 通知された金額を、そのまま受け入れなければならないわけではありません。
- ただし、断り続ければ済むとは限りません。 話し合いがまとまらなければ、調停・裁判で相当な賃料が決まる流れになります。
- 比べるのは、残る場合と移転する場合の総額です。 月額の差だけでなく、初期費用・内装・二重賃料まで入れて比べます。
- 決める期限は、更新日ではなく解約予告の締切です。 移転する可能性があるなら、そこから逆算して動き始めてください。
目次
値上げの通知が来る背景
2026年は、東京のオフィス需要が高く、空室率が低い時期です。 新しく募集される区画の賃料が上がると、今の入居者の賃料との差が開きます。更新のタイミングで、その差を埋めたいという通知が届きます。
賃料が上がっている理由は、【2026年最新】オフィス賃料はなぜ上がっているのか?で整理しました。
賃料の値上げは法律上どう扱われるか

賃料増減請求とは、今の賃料が不相当になったときに、貸主または借主が将来の賃料の増額や減額を求めることです。
借地借家法第32条に定められており、税金などの負担の増減、経済事情の変動、近くの同じような建物の賃料との比較が判断の材料になります[s1]。
ここから、実務で押さえておきたい点は次の4つです。
- 通知された金額が、そのまま決まるわけではない:金額に争いがあれば協議し、まとまらなければ調停・裁判で相当な賃料が判断される
- 増額しない特約があれば、それに従う:契約書に「一定期間は増額しない」と書かれていれば、その定めが優先される
- 話し合いがまとまらない間は、相当と認める額を払えばよい:同条第2項。ただし、あとで裁判で増額が認められると、不足分に年1割の利息を付けて払うことになる
- 争うときは、まず調停:賃料の増減をめぐって訴えを起こす前に、調停を申し立てる決まりがある(民事調停法第24条の2)[s2]
もう1つ、普通借家の場合、貸主が更新を拒むには正当の事由が必要です(借地借家法第28条)。値上げに合意しないことだけで、すぐに退去しなければならないわけではありません。
個別の事情でどうなるかは、弁護士にご相談ください。 この記事では、移転を含めた判断の順番を整理します。
定期借家の場合は契約書が先
定期借家契約では、賃料の改定について特約があれば、借地借家法第32条は適用されません(同法第38条第9項)。
つまり、定期借家なら、まず契約書の賃料改定の条項を読んでください。改定のルールが書かれていれば、それに沿って決まります。
また定期借家は、期間が満了すると更新されずに終わる契約です。続けて借りるには再契約が必要で、再契約の条件として新しい賃料が示される、という形になります。
交渉する前にそろえる材料
交渉の材料は、近くの同じような物件の賃料です。 第32条が「近傍同種の建物の借賃」との比較を挙げているのは、そのためでもあります。
そろえておきたいのは次の3つです。
- 周辺の募集賃料 — 同じエリア・同じ規模・同じくらいの築年数の区画がいくらで出ているか
- いまの契約条件 — 賃料・共益費・契約期間・増額しない特約の有無・更新料
- 移転した場合の見積もり — 実際に移ったらいくらかかるか(次の章)
ここで気をつけたいのは、募集賃料は「言い値」で、決まった額ではないことです。ネットに出ている数字をそのまま相場と見ると、比べる前提がずれます。募集賃料と実際の賃料の違いは、オフィス移転の賃料はどう決まる?にまとめました。
当社の実務上、すぐ入居できる状態の物件や、同じビルで複数のフロアが空いている物件は、条件が下がりやすい傾向があります。
同じ物件でも、聞く時期で答えが変わることがあります。当社ではこうした事例がありました。
4か月後に入居という条件のときは、交渉の余地がありませんでしたが、2か月後に改めて確認すると、入居時期の後ろ倒しか、賃料の値下げの余地が出ていました。
金額でいうと、当社の仲介実務上、物件によっては共益費込みの坪単価で1,000〜1,500円程度の調整余地があるケースもあります(2026年9月現在の感覚)。
すべての物件に当てはまる数字ではありません。 ビル・募集状況・貸主・契約条件によって変わるものです。ただ、移転先の賃料も「出ている数字のまま」とは限らない、という判断材料にはなります。
残る場合と移る場合の総額を比べる

判断は、月額の差ではなく、同じ期間の総額で比べます。 移転には、月額の差を打ち消すくらいの一時的な費用がかかるためです。
| 残る場合 | 移転する場合 | |
|---|---|---|
| 毎月かかる | 値上げ後の賃料・共益費 | 新しいオフィスの賃料・共益費 |
| 一度だけかかる | 更新料(契約にある場合) | 仲介手数料・内装工事・什器・通信・引越・旧オフィスの原状回復 |
| 重なって払う | なし | 二重賃料(新旧の賃料が重なる期間) |
| 差し引ける | なし | フリーレント(賃料が免除される期間) |
| 戻ってくる | いまの敷金は預けたまま | 旧オフィスの敷金は返還(償却や未払いの分は差し引き)、新オフィスの敷金を預ける |
値上げ幅は、「今の月額の何か月分か」に直すと比べやすくなります。 たとえば月額賃料が1割上がると、2年で今の月額の2.4か月分に当たる支払いが増えます(共益費を含まない前提の計算例)。
この増加分と、移転にかかる一時的な費用を並べてください。移転先でフリーレントが付けば、その期間の賃料は差し引けます。フリーレントの考え方はフリーレントとは?にまとめました。
敷金・保証金は、原則として返還される部分があるため、契約時に必要な資金と最終的な負担額を分けて考えます。 償却の定めや未払いの債務があれば差し引かれるので、契約条件を確認してください。
移転では、新旧の賃料が重なる二重賃料も見込んでおいてください。詳しくは二重賃料とは?発生する理由と負担を抑える方法をご覧ください。
比べる期間は、次の契約期間(たとえば2年)にそろえると判断しやすくなります。値上げ幅が小さければ残るほうが安く、大きければ移転が見合う——その分かれ目を、自社の数字で出してください。
決める期限は「解約予告の締切」

移転する可能性があるなら、期限は更新日ではなく、解約予告を出す締切です。 解約予告とは、退去の意思を貸主へ正式に伝える通知です。予告の期間は契約書で決まっており、6か月前と定められていることがあります。
ここでつまずきやすいのは、次の順番で進んだときです。
- 値上げの通知が届く
- 交渉してみる
- まとまらないので移転を考える
- 物件を探し始める頃には、解約予告の締切が過ぎている
オフィス探しは、入居希望日の5〜6か月前に始めるのが理想です。探し始めから契約まで約3か月、契約から入居まで約3か月かかります。
解約予告を出すのは、原則として移転先の契約後です。 先に出すと、物件が決まらないまま退去期限だけが迫ります。交渉と並行して、移転した場合の候補と見積もりを先にそろえておくと、締切の前に落ち着いて判断できます。
更新日と解約予告期間の関係は、【最重要】オフィス移転で最初に確認すべきは「更新日」ではありませんで詳しく扱いました。
FAQ
Q. 賃料の値上げを断ることはできますか?
通知された金額を、そのまま受け入れなければならないわけではありません。金額に争いがある場合は協議し、まとまらなければ調停や裁判で相当な賃料が判断されます。個別の見通しは弁護士にご相談ください。
Q. 値上げに合意しないと、出ていかなければなりませんか?
普通借家の場合、貸主が更新を拒むには正当の事由が必要です(借地借家法第28条)。値上げに合意しないことだけで、すぐに退去が決まるわけではありません。定期借家の場合は、期間満了で契約が終わるので扱いが違います。
Q. 話し合いがまとまらない間、賃料はいくら払えばよいですか?
借主が相当と認める額を払えば足りる、と定められています(借地借家法第32条第2項)。ただし、あとで裁判で増額が認められると、不足分に利息を付けて払うことになります(利率は年1割と定められています)。
Q. 契約書に「増額しない」とあれば、値上げされませんか?
一定の期間は増額しないという特約があれば、その定めに従います(借地借家法第32条第1項ただし書)。まず契約書の賃料改定の条項を確認してください。
Q. 定期借家でも交渉できますか?
賃料改定の特約があれば、その内容が優先されます(借地借家法第38条第9項)。期間満了後も借りるには再契約が必要で、その条件として新しい賃料が示されます。
Q. 残るか移るか、何を比べればよいですか?
同じ期間の総額で比べてください。残る場合は値上げ後の賃料と更新料、移転する場合は新しい賃料に加えて、仲介手数料・内装・引越・原状回復・二重賃料を入れ、フリーレントを差し引きます。
Q. いつまでに決める必要がありますか?
移転する可能性があるなら、解約予告の締切が期限です。契約書で予告期間を確認し、その締切から逆算して物件探しを始めてください。
まとめ
賃料の値上げの通知は、貸主からの請求です。通知された金額を、そのまま受け入れなければならないわけではありません。
一方で、話し合いがまとまらなければ、調停や裁判で相当な賃料が決まります。定期借家なら、まず契約書の改定条項が先です。
判断は、残る場合と移る場合の総額で比べてください。 値上げ幅を「今の月額の何か月分か」に直すと、移転の費用と並べやすくなります。
そして期限は、更新日ではなく解約予告の締切です。 交渉と並行して、移転した場合の数字を先にそろえておけば、慌てずに決められるはずです。
出典
本文中の数値・相場・制度などの根拠にした資料を掲載しています。
| この記事で述べていること | 出典(資料名・URL) | 公表日 | 確認日 |
|---|---|---|---|
| 賃料の増減請求(第32条)、更新拒絶の正当の事由(第28条)、定期建物賃貸借の賃料改定特約(第38条第9項) | e-Gov法令検索「借地借家法」(平成3年法律第90号) | — | 2026-09-11 |
| 賃料の増減をめぐる訴えの前の調停(第24条の2) | e-Gov法令検索「民事調停法」(昭和26年法律第222号) | — | 2026-09-11 |
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